準委任・派遣・請負の違いは、契約書の題名では決まりません。決めているのは「誰が指示を出すか」です
結論
SESの契約でいちばん多いのは準委任ですが、契約書の1枚目に「業務委託契約書」と書いてあることを根拠に、自分の契約形態を判断してはいけません。3つの契約を分けているのは題名ではなく、「仕事の完成に責任を負うか」と「誰が指示を出せるか」の2つです。
この2軸で見ると答えは単純です。請負は完成に責任を負い、指示を出すのは自社。準委任は完成には責任を負わず、指示を出すのはやはり自社。客先があなたに直接指示を出してよい契約は、労働者派遣だけです。準委任のはずの現場で、客先の社員から直接作業手順や残業の指示を受けているなら、契約の題名がどうであれ実態は派遣に寄っています。
だから確認すべきは「うちは業務委託ですか」ではありません。「私への指示は、誰が出すことになっていますか」。この一問です。現場で起きるトラブルの多くは、この線が曖昧なまま日常が回っていることから始まります。
根拠
3つの契約がどこで分かれているのかを、法令の定めに沿って3つに分解します。
1. 完成義務があるのは請負だけ。準委任は「善良な管理者の注意」を尽くす契約
まず民法の側から見ます。
- 請負:民法632条は、請負を「仕事を完成することを約し」その結果に対して報酬を支払う契約と定めています。成果物が完成しなければ原則として報酬を請求できません。売買の規定が準用され(民法559条)、成果物が契約の内容に適合しなければ契約不適合責任を負います。
- 準委任:法律行為でない事務の委託には、委任の規定が準用されます(民法656条)。負うのは完成義務ではなく、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務です(民法644条)。成果が出なくても、この義務を尽くしていれば債務不履行にはなりません。
- 準委任にも2種類ある:行った履行の割合に応じて報酬を請求する履行割合型(民法648条3項)と、得られた成果に対して報酬を支払う成果完成型(民法648条の2)です。稼働時間で月額精算する形は前者にあたります。
- 労働者派遣:これは民法の役務提供契約ではなく、労働者派遣法が定める仕組みです。雇用契約は派遣元と結び、指揮命令は派遣先が行うという、雇用と指揮命令が分離した形をとります。
2. 現場で線を引いているのは、契約書の題名ではなく「37号告示」の基準
請負・準委任として扱われるために何を満たす必要があるかは、行政の基準として示されています。
- 正式名称:「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)。通称37号告示と呼ばれます。
- 労務管理上の独立:告示第2条第1号は、受託した側が業務の遂行に関する指示その他の管理、労働時間等に関する指示その他の管理、企業における秩序の維持・確保のための指示その他の管理を、いずれも自ら行うことを求めています。作業の進め方も、始業終業や残業の指示も、服務規律の指示も自社が出す、という意味です。
- 事業経営上の独立:同条第2号は、業務処理に要する資金をすべて自らの責任で調達し支弁すること、事業主として民法・商法上の責任を負うこと、そして単なる肉体的な労働力の提供ではないこと(機械設備や材料を自ら調達するか、自らの企画または専門的な技術・経験に基づいて処理すること)を求めています。
- 題名では逃げられない:告示第3条は、第2条の要件を形式的に満たしていても、法の規定の適用を免れるために故意に偽装したものであれば労働者派遣事業と判断されるとしています。判断されるのは実態です。
3. 線を越えた状態が続くと、「偽装請負」として労働者派遣法の問題になる
ここが、線引きが曖昧なまま放置されたときに効いてくる部分です。
- 偽装請負:契約の形は請負や準委任なのに、実態としては客先が直接指揮命令している状態を指します。
- 労働契約申込みみなし制度:労働者派遣法第40条の6は、一定の違法派遣について、受け入れた側がその時点で本人に労働契約を申し込んだものとみなすと定めています。偽装請負はその類型のひとつです。
- 偽装請負には目的の要件がある:この類型では派遣法などの規定の適用を免れる目的があったことが要件とされ、受け入れ側が善意無過失であった場合は除かれます。
- 日常的・継続的であれば目的が推認されうる:東リ事件の大阪高裁判決(令和3年11月4日。上告不受理により確定)は、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態が続いていた場合、特段の事情がない限り、その状態を認識しながら組織的に偽装請負等の目的で役務の提供を受けていたと推認するのが相当だとしました。
- 承諾には期限がある:みなされた申込みに本人が承諾の意思表示をできるのは、違法な状態が終了した日から1年以内とされています。
- 自己判断はしない:あてはまるかどうかは事実関係の評価によります。気になる場合は、都道府県労働局の需給調整事業部門や労働基準監督署、専門家に相談してください。
行動提案
自分の契約形態と現場の実態を、事実で突き合わせるための3つのアクションです。
1. 契約の3点を、言葉ではなく条項で確認する
「業務委託」という言葉は準委任と請負の両方を指すので、それだけでは何も確定しません。
- 契約類型:「この案件は準委任ですか、請負ですか、労働者派遣ですか」。3つのどれかを言葉で答えてもらいます。
- 完成義務の有無:契約書に「仕事の完成」「検収」「契約不適合責任」が並んでいれば請負寄り、「善管注意義務」「稼働時間」「月額精算」が並んでいれば準委任寄りです。
- 指示の経路:「作業手順の指示・勤怠の承認・残業の指示は、誰が出すことになっていますか」。労働者派遣であれば、指揮命令を行う人が契約に定められます。定めがないのに客先が直接出している状態が、いちばん確認したいところです。
2. 「誰から何を指示されたか」を1〜2週間だけ記録する
感覚ではなく記録にすると、会社にも客先にも同じものを見せて話ができます。
- 記録する項目:日付/指示した人の所属(自社か客先か)/指示の内容(作業手順・残業・出社日・勤怠の承認など)。この4つで足ります。
- 情報提供と指揮命令は別:客先が仕様や必要な情報を伝えること自体は、直ちに指揮命令にはあたりません。線を越えるのは、作業の進め方や労働時間を客先が決めている状態です。
- 持ち出さない:記録には客先の業務情報が混ざります。客先の規定に反する持ち出しはしないこと。指示の経路が分かる粒度で十分で、業務内容の詳細まで書き写す必要はありません。
3. 気づいたことは、まず自社に事実として渡す
契約の当事者は会社どうしです。線を引き直せるのは、現場のあなたではなく会社の側です。
- 順番:最初に自社の営業・管理部門へ。客先の担当者に直接抗議する形にしない方が、話は進みやすくなります。
- 渡し方:評価ではなく事実で。「客先の担当者から直接、残業の指示を受けています」という形にすると、会社側も客先と条件の話をしやすくなります。
- 動かないとき:都道府県労働局の需給調整事業部門は、労働者派遣や請負の区分に関する相談窓口です。賃金や労働時間に関わる部分は労働基準監督署にも相談できます。
- 会社選びの判断材料にもなる:契約類型と指示の経路を聞いたときに、その場で条項を見せて説明できるかどうかは、その会社の透明性がそのまま出るところです。
契約類型と指示の経路は、案件を受ける前に条項で確認できます。
アンサーライズは受注単価を100%開示しています。案件単価の60%以上(平均65%)を額面給与として支給し、この割合に社会保険料の会社負担分は含みません(会社が別途負担します)。参画する案件はご本人に選んでいただくため、その案件が準委任なのか、指示を誰が出すことになっているのかも、受けるかどうかを決める前に確認していただけます。分からない条項があれば、契約書を一緒に見ながらご説明します。
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