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契約・法律

案件を断れるかどうかは、労働条件通知書の「変更の範囲」欄と、待機中の賃金の条項で決まります

明るいオフィスで、木目のテーブルに着いた水色のシャツの2人が1枚の白い紙を見ている写真。左の男性がテーブル越しに人差し指で紙の一点を指し、右の男性は両手で紙を持ちながらそこに視線を落としている。手前左には開いたグレーのノートパソコン、テーブル中央には黒いペンを載せた薄い黄色のフォルダーが置かれている。左手は大きな窓で、背景は落ち着いたグレーブルーの壁

結論

先に答えを書きます。正社員として雇われている場合、案件を断る権利は、はじめから強くはありません。それを変えるのは、職種や業務内容を限定する合意です。合意があるかどうかは、入社のときに渡される書面で確かめられます。

見る場所は2か所です。労働条件通知書の「就業場所・業務の変更の範囲」という欄。それと、就業規則のうち待機中の賃金を定めた条項。前者が断れる範囲を決め、後者が断ったあとの生活を決めます。書面のほかに一つだけ、面談で聞いておくことがあります。直近に何件の案件を提案されたか、です。

2024年4月1日に労働条件明示のルールが改正され、前者は入社前に読めるようになりました。すべての労働契約の締結時に、「変更の範囲」を明示することが必要になったためです。

待機のほうも見ておきます。案件を断れば、次が決まるまで待つことになります。待機中にいくら振り込まれるかで、断るという選択肢を実際に使えるかどうかが決まります。法律が定める下限は、平均賃金の6割です。

誰が現場で指示を出すのかという線の引き方は、契約形態の記事で扱いました。この記事で見ているのは、その一つ手前の線です。誰がどの現場に行くかを、誰が決めるのか。

根拠

1. 正社員の「断る権利」は、もともと強くありません

雇用契約を結ぶと、会社は労働者をどこに配置するかを決める権限を持ちます。この権限の限界を示したのが、東亜ペイント事件の最高裁判決(最判昭和61年7月14日)です。

判決は、転勤命令が権利の濫用になる場合を例示しました。まず、業務上の必要性が存在しない場合。必要性がある場合でも、ほかの不当な動機や目的をもってなされたときや、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるときは、濫用になるとしています。例示なので、これで全部というわけではありません。

実務で効いてくるのは、業務上の必要性の水準です。判決はこれを高く設定しませんでした。労働力の適正配置や業務の能率増進など、企業の合理的運営に寄与する点が認められれば足りるとされています。この枠組みは労働者に有利な作りではありません。断りたいという意思だけでは、命令の効力は揺らぎません。なお、この判決が扱ったのは転勤です。SESの現場変更をそのまま同じ枠に入れてよいかは、契約や就業規則の書きぶりによります。

2. 職種や業務内容を限定する合意があれば、使用者は同意なしに配置を変えられません

原則を動かす合意については、2024年に最高裁の判断が出ています。滋賀県社会福祉協議会事件(最判令和6年4月26日)です。

事案はこうです。原告は平成13年の採用から約18年間、福祉用具センターで福祉用具の改造や製作を行う技術職として働いていました。福祉用具のセミオーダー化で需要が激減し、その業務が廃止されることになります。法人は原告に、総務課の施設管理担当への配置転換を命じました。

最高裁は、労働者と使用者との間に労働契約上の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、労働者の個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと判示しました。言い換えると、職種を限定する約束があるなら、配置を変えるには本人の同意が要る、ということです。

読み方に注意が要る点が二つあります。一つは、これが損害賠償を求めた事案であることです。原審は、職種限定の合意を認めたうえで、解雇を避けるためだから違法とはいえないと判断していました。最高裁はこれを破棄しました。配転命令そのものを無効と宣言したのではなく、そもそも命じる権限があったのかを審理し直させるため、差し戻したかたちです。もう一つ。合意があるかどうかは、事案ごとの判断です。本件では、採用時から同じ技術職として長く勤務してきた経緯などが材料になりました。

これがSESに効いてきます。「インフラ運用の業務に限る」「常駐先は関東圏内に限る」といった限定が合意として成立していれば、その外側の案件を使用者が一方的に命じる根拠は弱くなります。限定が何もなければ、断る根拠を契約の側から調達できません。

3. 2024年4月から、限定の有無が入社時の書面に書かれるようになりました

では、合意があるかどうかはどこで確認するのか。2024年4月1日に労働条件明示のルールが改正され、確認できる場所が決まりました。

変わったのは2点です。厚生労働省の案内によれば、明示のタイミングは、すべての労働契約の締結時と、有期労働契約を更新するタイミングごと。明示する内容には、「雇い入れ直後」の就業場所・業務に加えて、その「変更の範囲」が加わりました。対象は全労働者です。

入社前に受け取る労働条件通知書に、将来どこまで動かされる可能性があるのかが書かれている、ということです。「会社の指定する場所」「当社が指定する客先」とだけ書いてあれば、範囲は実質的に限定されていません。「〇〇部門の△△業務に限る」と書いてあれば、そこが限定です。読む場所が決まっているので、面談の空気を読む必要はありません。

4. 断った先には待機があります。待機中の賃金が、選択肢の現実味を決めます

断る権利が契約上あったとしても、断った月の生活が成り立たなければ、その権利は使えません。ここを決めるのが待機中の賃金です。

労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業について、平均賃金の6割以上の休業手当を支払う義務を定めています。案件が用意できないという会社側の事情は、通常ここに当たります。天災のような不可抗力は含まれません。6割は下限です。就業規則が満額の支給を定めていれば、そちらが適用されます。

平均賃金の計算には癖があります。原則は、算定事由の発生日以前3か月間の賃金総額を、その期間の総日数で割った額です。賃金締切日があれば、直前の締切日から遡ります。総日数は暦の日数で、所定労働日数ではありません。そのため「月給の6割」と聞いて思い浮かべる額より低く出ることがあります。ただし日給制・時間給制・出来高払制の場合は、労働基準法第12条1項ただし書に最低保障額の定めがあり、原則の計算額と比べて高いほうが平均賃金になります。

就業規則で確かめるのは、次の3点です。待機期間に給与が出るのか。出るとしたら満額か、休業手当の水準か。そして、待機が何か月続いたら扱いが変わるのか。

5. 制度として選べても、提案が1件なら選んだことになりません

選択肢の数には、会社の方針のほかにもう一つ効いているものがあります。商流です。その会社が元請けから数えて何番目で案件を受けているか。商流の深さは単価に効くとよく言われますが、手元に届く案件の幅にも同じように効きます。

もう一点。「選択制」という言葉に、業界の共通ルールはありません。同じ言葉を使っていても中身は会社ごとに違います。制度の名前を確かめるより、直近に何件提案されたのかを聞くほうが早く済みます。

行動提案

入社前に、労働条件通知書と就業規則の待機条項を見せてもらう

通知書は「就業場所・業務の変更の範囲」の欄。就業規則は待機や休職に関する条項。この2つだけで足ります。内定前に写しをもらえるかどうかも、それ自体が一つの情報になります。求人票の文言より、この2枚のほうが具体的です。

面談では、件数・実績・期間の3つを聞く

まず件数です。「直近に入社した方には、何件くらい案件を提案されましたか」。次に実績。「提案された案件を断った方は、実際にいますか。そのあとはどうなりましたか」。最後に期間。「案件が決まるまでの待機は、平均でどのくらいですか」。3つとも、答えが返ってくるかどうかを含めて材料になります。

在籍中なら、次の更新か、手元の通知書から確認する

有期契約であれば、更新のたびに変更の範囲が明示されます。無期契約なら、入社時の通知書を読み直すところからです。見当たらない場合は、人事に再交付を求められます。

断れるかどうかは、担当者の人柄や面談の雰囲気からは読み取れません。読み取れるものは別にあります。書面に書かれた範囲と、断ったあとに振り込まれる金額です。この2つが分かれば、断るという選択肢が自分にとって実在するかどうかは、入社前に計算できます。そして、この2枚を見せることを渋る会社があったとしたら、その反応自体が、計算に使える最初のデータになります。

「提案された案件を断った方は、実際にいますか」。経緯まで添えて答えられる会社かどうかです。

アンサーライズは、参画する案件をエンジニア本人に選んでいただきます。希望しない案件への一方的なアサインは行いません。希望と違う案件をお願いすることもあります。そのときは、なぜ今それをお願いしたいのかを正直に説明します。黙って決めることはしません。納得できなければ断っていただいて構いません。受注単価は100%開示し、案件単価の60%以上(平均65%)を額面給与として支給します。この割合に社会保険料の会社負担分は含みません。会社が別途負担しています。

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